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「兄上の温情に感謝するんだな」
そして振り返り、遅れて付いて行った自分に指先を突き付け、彼はそう言い放つのだ。その声は、ビルの何階分を突き抜けているかも分からない程に高い天井の下で細く揺れ、名残を惜しむようにいつまでも響いていった。その音に、よく響くなぁと呑気に考えていたのは、今日は朝から頭が働くことを休んでいるからなのかもしれない。
「聞いているのか、トーマ」
薄暗い室内でも色褪せることのない、勝気なエメラルドグリーンの瞳に覗き込まれ、返した返事も半歩遅れる。
「…聞いてます。聞いてます。だけど、俺が訊きたいのはさ、どーしてお前がここに来たのかってことなんだけどな?」
ようやく質問できる機会を与えられてほっとする。そしてそう尋ねると、内容が不服だったのか、彼は整った眉をひそめる。
「…どうしてとはどういう意味だ。」
「だから、どうしておれの行き先が分かったのかって話だよ」
セフィムは、疑わしげな視線を寄越し、呆れたとでも言いたそうにため息をついた。
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