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指し示された扉の向こうには、今でもまだ雨が降っている。分厚い壁越しには雨音を聴き取ることも出来ないけれど、セフィムの濡れた前髪がそれを教えてくれている。そして、自分の靴にこびり付いた泥はねの跡。
濃い灰色の雲が立ちこめ、雨が降り出したのは、朝食が終わってすぐの頃だった。
そう、今だってこんなにも石の床に跡が残っているではないか。きっとこの建物の外にもずっと、自分の足跡が続いている。ぬかるんだ土に描かれた靴跡が、城からここまで、自分が辿った道を教えてくれている。
「自分の足跡くらい確認して歩くんだな。」
返す言葉もない。自分はそんなにもあからさまに自分の居場所を示していたのだ。
今日一日の計画が初めの段階から頓挫したことに、がっかりしない訳がない。トーマはその様を隠すことすらせず、大きく肩を落とし、ため息をついた。
休みなどないはずの王様稼業に訪れた休日は、あまりにも唐突で突然で、そしてもう二度とないだろうと思うから特別だった。
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