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「ねぇ、寒くない?」
彼女がそっとささやいた。
「……うん、大丈夫」
やけに空がきれいな夜だった。空気が澄んでいて、星が輝いている。
河原に一本だけ立っている大きな杉の木。彼と彼女はその木にもたれて空を見ていた。
「本当に寒くない? 大丈夫?」
彼女は自分のジャケットを彼の肩にかけた。
フワッと、彼のシャンプーの香りが二人を包む。
彼は嬉しそうに微笑むと、「ありがとう」と言った。
「あのさ……」
「なあに?」
「あの約束、守れなかったね」
「東京に行って歌手デビュー?」
「うん」
ゆっくりと瞬きをした彼の目から涙が落ちた。
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