ヤクソク

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 気がつくと彼女は立ち止まり、涙を流していた。  自分でもこれには驚いたが、それ以上に驚いたのは歌っていた本人らしかった。目を見開いて彼女を見つめている。  恥ずかしくなった彼女は、回れ右をすると、逃げるように土手を駆け上っていった。  それからというもの、彼女の頭の中にはいつもあの歌声が響いていた。  彼の歌には、どこか心に残る、また聴きたいと思える何かがあった。  彼もまた彼女のことが気にかかっていた。突然現れた女性が自分の歌を聴いて涙を流すなんて、はじめてのことだったのだ。
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