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「――あの、この間なんだけどさ」
ふたりは木の下に並んで腰掛けていたのだが、会話がなく、気まずい雰囲気に耐えかねたのか、彼が沈黙を破った。
「はい」
「歌……聴いてくれてありがとう」
「え?」
彼女は緊張でかちこちになりながら彼のほうを向いた。
辺りには誰もいない。そこはふたりだけの空間だった。
「ほら、この前もここで会ったでしょ?」
「あ、はい。覚えていてくれたんですね」
彼女はにこりと笑った。素直な丸い目が見せる、素朴な笑顔だった。
「――うれしかったよ」
彼の言う意味がよく分からず、彼女は彼の目を見つめて次の言葉を待った。
彼はというと、少し恥ずかしそうにほほを赤くしている。
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