佐倉

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「森谷君!何でまだ片付けてないの?」 厨房に呼ばれていた佐倉が戻って来た。 「うっせぇな…今やるし…」 面倒くさそうに立ち上がった俺は、片付ける為の道具を取りに行く。 こんなボンボンの俺がここでバイトしているには、理由があった。 佐倉は多分25歳くらいだと思う。 なのに意外にも、ここのオーナーだった。 彼女は、仕事熱心だ。 だけど、オーナーのくせに可愛い顔したり、時折弱い顔を見せる。 栗色のふんわりとした髪に合った、クリクリとした大きな茶色の瞳。 ちょうど、半年前。 俺は偶然通りかかったこの飲食店の前で、働く彼女を見付けた。 少しそそっかしく、危なっかしい彼女から目を離せなくなっていた自分がいた。 何故か彼女が働くこの飲食店で、働きたいと思った。 そう思った俺は、すぐさま面接をしに行った。 しかしその頃の俺は、金髪に近いような髪色で耳にはジャラジャラとしたピアス。 胸元にはアクセサリー。 「やる気がない人は採らない」 見事に彼女によって落とされたが、そんな事でめげない俺は生まれて初めて、人に頭を下げた。 「ここで、どうしても働きたいんです」 すると彼女に「髪を直して、ピアスやアクセサリーをちゃんと外してくるなら考えてあげる」そう言われた。 俺は彼女の言う通り、髪を黒く染め、ピアスも外した。 派手だった俺にはダサすぎる容姿になり、彼女はニコッと微笑んで俺を採用してくれた。
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