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まず気になるのはこの耳だ。
恐らくカチューシャかヘアバンドで、簡単に取れるはずだ。
そろそろ~、と少女を起こさないよう慎重に手を伸ばし、そっと猫耳を掴む。
…………取れない。
それどころか、人間の耳の位置にそれがないことに気づいてしまった。
吉人は予想外な事実に焦る。
「何してんのよ」
ぎくっ、と全身をこわばらせる。
さっきとはまったく違う緊張感が吉人の身体を支配した。
いつの間にか目を覚ました少女は、深緑の瞳を訝しげにこちらに向けていた。
日本人にはないその瞳の色に、吉人は息を呑む。
そしてその間も、しっかりと猫耳から手を放さずにいた。
「えっと……」
もの凄くマズい展開だ。
下手なことを言えばまた少女を怒らせるだろうが、上手い言い訳も思いつかない。
「これ、本物なのか気になって……」
不覚にも正直に言ってしまった。
「うおわ!」
突然飛んできた拳を受け止める。
やはり少女は怒ったらしい。
「な、何すんだよ!」
叫んでも少女の拳は止まらない。
だが、吉人は幼い頃から剣道を習っていたこともあり、単純に飛んでくるパンチなど通用しなかった。
「うるさい! この期に及んでまたわたしを侮辱したからよ!」
「ちょっと待て、俺はお前をバカにした覚えはねえぞ!」
続けざまに繰り出されるパンチを避けたり受け止めたりしながら、吉人はまた抗議の声を上げた。
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