獣人の世界

10/18
前へ
/150ページ
次へ
  まず気になるのはこの耳だ。 恐らくカチューシャかヘアバンドで、簡単に取れるはずだ。 そろそろ~、と少女を起こさないよう慎重に手を伸ばし、そっと猫耳を掴む。 …………取れない。 それどころか、人間の耳の位置にそれがないことに気づいてしまった。 吉人は予想外な事実に焦る。 「何してんのよ」 ぎくっ、と全身をこわばらせる。 さっきとはまったく違う緊張感が吉人の身体を支配した。 いつの間にか目を覚ました少女は、深緑の瞳を訝しげにこちらに向けていた。 日本人にはないその瞳の色に、吉人は息を呑む。 そしてその間も、しっかりと猫耳から手を放さずにいた。 「えっと……」 もの凄くマズい展開だ。 下手なことを言えばまた少女を怒らせるだろうが、上手い言い訳も思いつかない。 「これ、本物なのか気になって……」 不覚にも正直に言ってしまった。 「うおわ!」 突然飛んできた拳を受け止める。 やはり少女は怒ったらしい。 「な、何すんだよ!」 叫んでも少女の拳は止まらない。 だが、吉人は幼い頃から剣道を習っていたこともあり、単純に飛んでくるパンチなど通用しなかった。 「うるさい! この期に及んでまたわたしを侮辱したからよ!」 「ちょっと待て、俺はお前をバカにした覚えはねえぞ!」 続けざまに繰り出されるパンチを避けたり受け止めたりしながら、吉人はまた抗議の声を上げた。  
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!

128人が本棚に入れています
本棚に追加