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「じゃ」
軽く手を上げて、短く言った。
「元の世界に帰るよ」
「なんだ、帰れるのね」
「……いや、わからん」
「じゃあ、どうやって帰るのよ?」
「そうだなあ……」
はっきり言って帰れるのかはわからない。
しかし、まったく心当たりがないわけではない。
自分はあの木の洞の中で眠っていたらここに来ていた。
ここが本当に異世界かどうかは疑わしかったが、帰れるとすれば同じところで眠ればいい。
そしたら自然と元の場所に戻っているかもしれない。
単純だったが、吉人にはこれくらいしか思いつかなかった。
「わたしに何か手伝える?」
「あぁ…………、え?」
吉人は耳を疑った。
「手伝ってくれんのか?」
「できる範囲ならね。なんで? 手伝ったらいけないの?」
「俺は今さっき、この世界では人間は悪になるという説明を聞いたばかりなんだけど?」
矛盾するのだ。
人間である自分を嫌っているはずの獣人、その少女が、元の世界に帰るのを手助けするなんて。
「勘違いしないで。別にあんたのためじゃないのよ。ただ、早くこの世界から出て行ってほしいだけ」
「あぁ……そう」
納得いくような、いかないような……。
手伝うというのは何か引っかかる表現だが、気にしたところで仕方がない。
吉人は素直に手伝ってもらうことにした。
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