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―――――――
「…………」
「……ねぇ、本当にこのあたりなの?」
退屈なのか隣を歩く少女から愚痴が聞こえる。
あれから30分は探し回っているのに、そんな木はまったく見当たらないからだ。
場所は確かにこのあたりのはずなのに……。
周りにあるのはどれも同じような木で、洞があればすぐわかるはずだ。
でも、見つからない。
気づかない間に陽は落ち始め、光は次第に赤くなっていく。
ここで目を覚ましてから、気絶したり長々と説明されたり木を探したり。
それなりの時間が経っていてもおかしくはなかった。
「今日はもう諦めましょ」
「そんな!」
唐突な少女の言葉に、吉人は慌てた。
「なんでだよ! もうちょっと探せば、見つかるかもしれねえのにっ」
「そんな保証、どこにもないじゃない」
「……っ」
吉人は言葉を詰まらせた。
「それに、さっき説明した中に、怪物ってあったでしょ?」
少女は尻尾をゆらゆらさせながら話しだす。
「この森にはね、そいつらが多いの。ミッドガルドから影響を受けやすい土地なのよ。あんたもその一つだと思うけど」
つまり、この森とあっちの山はあの木の洞を介して繋がりがある、ということだろうか。
「なんにしても、これ以上ここで歩き回るのは危ないのよ。とりわけ、夜はあいつらの行動が活発になるし」
「……マジかよ……」
吉人は頭を抱えた。
今日までに帰れるかどうかすら、怪しくなったのだ。
ましてや少女の協力なしに、一人でこの辺りを散策するなんてできない。
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