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「何してんの! 速く来て!」
さっきから速く速くって……、まぁ仕方ないのだが。
道は一つ、やはり渡るしかない。
吉人が全速力で駆け出した直後、間を抜けられなかったのか、木を倒しながら怪物も森から出てきた。
吉人は振り返らずにひたすら橋の上を走る。
後ろを意識してしまったら、走るスピードが落ちてしまう気がした。
「――――――、……あ?」
おかしい、と思った。
あれほど騒がしかった、怪物の追い立ててくる気配がない。
橋を渡りきって振り返ると、そいつは橋の前でじっとこちらを睨んでいた。
だが、橋を渡ってこっちに来ようとはしない。
いや、橋を渡るより翼で飛んでもいいはずだった。
「もう大丈夫よ、結界の中に入ったから」
息を整えながら少女が言った。
「けっかい?」
「学院の敷地に張りめぐらされてるの。怪物や侵入者除けにね。ついでに言うと、あいつの翼も見かけだけだから」
「なんだよ、飛べないのか」
気にして損した気分だ。
「でも、俺は侵入者にならないのか?」
「わたしがいるから、問題ないわ。多分」
最後の一言が気になったが、今更どうしようもない。
「ほら、こっちよ。急がないと他の生徒に見つかるかもしれないわ。とっとと来なさい」
少女はまた先に立って歩きだす。吉人もそれについて行った。
後ろから怪物の狼のような遠吠えが聞こえてくる。
もう、帰れないかもしれない。
吉人はそんな感じがした。
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