獣人の世界

3/18
128人が本棚に入れています
本棚に追加
/150ページ
  山桜を難なく見つけたあと、突然雨が降り出したのだ。 しかもかなりの土砂降りが。 証拠に、今着ているパーカーもトレーナーも、少し湿った感じが残っている。 スニーカーは恐らくぬかるんだ土壌で汚れたのだろう、靴底に乾いた土がついていた。 大粒の雨に困っていたところに、この木の洞を見つけ、雨宿りのために入った。 そしたら、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。 ここに至るまでのいきさつを思い出して、吉人はちょっと安心した気分になった。 でも、そうとなったらいつまでもこの中にいる必要はない。 雨はすっかりやんでいるし、太陽の傾き具合からすると、もう夕方近くだ。 さすがに家族も遅いと不審に思っているだろう。 重い腰を上げて洞の中から這い出る。 雨が降った面影はもうなく、踏みしめた土は固かった。 だが、そうやって洞を出た吉人は、奇妙なことに気づいた。 地面が傾いていない。 ここは山だったはずだ。 少なくともこんな平坦な場所ではなかった。 その場でいくら見回してみても、傾いたところは見当たらない。 それどころか、立ち並ぶ木が山に生えていたものとは違うことに気づいた。 いったいここはどこだ? じっとしていても仕方がないと思い、吉人はあてもなく歩きだした。  
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!