128人が本棚に入れています
本棚に追加
/150ページ
山桜を難なく見つけたあと、突然雨が降り出したのだ。
しかもかなりの土砂降りが。
証拠に、今着ているパーカーもトレーナーも、少し湿った感じが残っている。
スニーカーは恐らくぬかるんだ土壌で汚れたのだろう、靴底に乾いた土がついていた。
大粒の雨に困っていたところに、この木の洞を見つけ、雨宿りのために入った。
そしたら、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
ここに至るまでのいきさつを思い出して、吉人はちょっと安心した気分になった。
でも、そうとなったらいつまでもこの中にいる必要はない。
雨はすっかりやんでいるし、太陽の傾き具合からすると、もう夕方近くだ。
さすがに家族も遅いと不審に思っているだろう。
重い腰を上げて洞の中から這い出る。
雨が降った面影はもうなく、踏みしめた土は固かった。
だが、そうやって洞を出た吉人は、奇妙なことに気づいた。
地面が傾いていない。
ここは山だったはずだ。
少なくともこんな平坦な場所ではなかった。
その場でいくら見回してみても、傾いたところは見当たらない。
それどころか、立ち並ぶ木が山に生えていたものとは違うことに気づいた。
いったいここはどこだ?
じっとしていても仕方がないと思い、吉人はあてもなく歩きだした。
最初のコメントを投稿しよう!