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頭が通るロープの輪を両手で持って真剣な顔をしていれば、小学生でも何をしようとしているかわかるだろう。
少女は自ら消えようとしているのだ。
「やめろって。そんな簡単に命捨てるな」
「簡単に捨てようとしてない! いつも悩んで、考えて、それで出した答えよ! ていうか、ただの人間の分際でわたしに指図しないで!」
やけに高慢で上目線の言葉だ。少しイライラしてきた吉人は後頭部を乱暴に掻きむしった。
「ただの人間って、どういう意味だよ? お前だってただの……」
そのとき、吉人は少女の頭の上にある黒い三角形の物体に気づいて、続きの言葉を呑み込んだ。
長い黒髪に紛れて今までわからなかったそれは、黒くて大きな猫の耳。
改めて少女の全身を見ると、ワンピースの後ろから同じく黒い紐のようなものが風で動いている。
…………いや。
もしかしたら、あれは尻尾ではないか? 風のせいじゃなくて、自ら動いているんじゃないか?
吉人は混乱してわけがわからなくなった。
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