獣人の世界

7/18
前へ
/150ページ
次へ
  頭が通るロープの輪を両手で持って真剣な顔をしていれば、小学生でも何をしようとしているかわかるだろう。 少女は自ら消えようとしているのだ。 「やめろって。そんな簡単に命捨てるな」 「簡単に捨てようとしてない! いつも悩んで、考えて、それで出した答えよ! ていうか、ただの人間の分際でわたしに指図しないで!」 やけに高慢で上目線の言葉だ。少しイライラしてきた吉人は後頭部を乱暴に掻きむしった。 「ただの人間って、どういう意味だよ? お前だってただの……」 そのとき、吉人は少女の頭の上にある黒い三角形の物体に気づいて、続きの言葉を呑み込んだ。 長い黒髪に紛れて今までわからなかったそれは、黒くて大きな猫の耳。 改めて少女の全身を見ると、ワンピースの後ろから同じく黒い紐のようなものが風で動いている。 …………いや。 もしかしたら、あれは尻尾ではないか? 風のせいじゃなくて、自ら動いているんじゃないか? 吉人は混乱してわけがわからなくなった。  
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!

128人が本棚に入れています
本棚に追加