娘の近くに寄ると、気のせいか避けられます。

6/23
前へ
/75ページ
次へ
俺が名札を付けた事を確認すると、先生はニコニコしながら話し掛けて来た。 「私、理科の授業でしか柴咲さんと接点が無いですけど、とても素直で、友達の多い、明るい生徒ですよ」 そして、「あ、中川と申します」と、思い出した様に胸に付けた名札を指差した。中川千尋(チヒロ)と記されている。 「そうですか、学校での娘の様子が分かって、少し安心しました。中川先生は理科の担当なんですね」 俺の返事を聞いた先生は、途端に「え?」、という表情を浮かべた。 「はい、そうです…。…え?お父様?お兄様ではなく?」 「はは…。これでも三十八歳ですよ?」 精一杯、明るく答えたが、コンプレックスをずがずがと殴られたので、内心、かなり落ち込んでます。 「…あっ、そうですよね!柴咲さんは一人っ子でしたね!」 先生、納得する所が違います。 何にしろ、これ以上話が進むと彩音の片親の話になると思ったので、会話を切る事にした。 俺は構わないのだが、相手はそんな話に慣れていないだろう。 彩音に兄弟がいない事を知っているということは、母親がいない事も覚えているはずだ。
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!

95人が本棚に入れています
本棚に追加