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「それでは先生、もう教室に行っても平気ですか?」
中川先生は「そうですねぇ…」と、右手側の壁に掛かった時計を見上げて頷く。午後一時五分を針が示(しめ)していた。
「はい、大丈夫ですよ。クラスの場所は分かりますか?」
「はい、東校舎の一階ですよね?」
先生はまた頷いた。
「お昼休みなので、生徒達が五月蝿(うるさ)いかも知れませんね。酷い時は、注意してもらって構いませんので」
彼女は苦笑いを含み、頭を下げた。俺もつられて同じ表情になりながら、腰を曲げて会釈を返す。
「自分も、学生の時は騒がしい質(たち)でしたよ。では、失礼します」
職員室のドアをくぐり、少数の生徒達が歩く廊下に出た。
と、そこで、顔見知りが廊下の向こう側からやって来るのが見えた。
相手は俺に気付かず、手鏡で前髪を確認し、手櫛(てぐし)で整えながら歩いていた。
しばらく見ない内にまた、派手になったなぁ…。
あと数メートルの距離だったので、俺から声を掛けた。
「知代(チヨ)ちゃん」
呼び掛けに気付いた知代ちゃんは、徐(おもむろ)に手鏡から視線を外(はず)し、ピンクの瞳で俺の姿を捉(とら)えた。
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