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暗いとも明るいとも、晴れとも曇りとも言い難い不思議な色をした空の下、オレはひと振りの日本刀を正眼に構えて、ひとりの男と対峙していた。
「なぁ……そこ、通してくんねぇかな。どうしても先に進まなきゃなんねぇんだよ、オレは」
オレの目の前に立ち塞がるこの男、一言で言い表すならばまさに異形。
魚の鱗の様な物を全身くまなく張り巡らせた衣服を身に纏い、背まで伸びた髪は蒼く輝いている。更に露出した肌は蒼白く水気と光沢を帯びていた。
そして、あからさまに人と似て異なる箇所……それは額の中央にもう一つ眼があるという事。
その異形なる男は、西洋風とも中東風ともいえない螺旋状の刃をした刀をフェンシングの選手のように構え、言葉を返した。
「悪いのですが……前に申し上げた通り、そう言う訳にはいきませんねぇ……。貴方には貴方なりの正義があるように、私にも大義名分があるんですよ。先に進みたかったら……私をなぎ倒してからお行きなさいっ!」
そう……実を言うとオレがこの男と対峙するのは二度目である。出来れば戦わずに通り抜けたいオレは、さっきから向き合ったまま押し問答しているのだが…………どうやら切り合いを逃れる手段はなさそうだ。
「ふぅ~……。わかった。恨みっこ無しだぜ? おっさん」
オレはひと呼吸すると、鍔一杯まで持った刀を握りしめて覚悟を決めた。
「うおらぁっ!!」
男の三つの眼が殺気を帯びたのを感じた瞬間、互いの刃先がキィィンッという音と共に勢い良く衝突する!
《アナザーワールド》と呼ばれるこの世界。
何故、オレがこんな場所で正真正銘の真剣勝負をしているのか?
何故、ヒトで無い者と闘わなければいけないのか?
事の起こりは一ヶ月前へと遡る。
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