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霊峰富士……
静岡県東部と山梨県南部に跨がり、標高三七七六メートルを誇る言わずと知れた日本最高峰の山、富士山。
宝永四年、後に宝永大噴火と呼ばれる噴火を最後に活動を停止している活火山である。
近年まで休火山と認識されていたが、調査により今だマグマの活動が活発であることから、現在では活火山として公表されている。
そして、その富士のおよそ北西の方角に位置し、赤松などの針葉樹を中心とした多くの樹木と広大な面積を有する原生林、青木ヶ原樹海。
過去、有名な小説作家の作品により《自殺の名所》などと呼ばれ、より一層人を寄せ付けない雰囲気を漂わせている青木ヶ原だが、俗に言われているように
『一度、奥深く足を踏み入れると、溶岩に含まれる滋鉄成分の影響で方位磁針が狂い、抜け出すことが出来ずに迷ってしまう』
という訳でもなく、遊歩道や公園などもある観光名所的な場所である。
とはいえ、国道や遊歩道から数百メートルも奥へ進んでしまうと、日光を遮るほどに天高く伸びる樹木達に廻りを三百六十度覆われ、昼間であっても僅かな範囲しか見えない位の闇に包まれてしまう。
最もこれは、青木ヶ原に限らず他の深い森にも同じ事がいえるのだが。
そんな樹木によって闇に包まれ、更には手を突かないと前に進むのが困難なゴツゴツとした岩肌の溶岩達が、オレ達の行く手を阻むかのように立ちはだかる。
その道なき道を、時雨の後に続いて進むオレの姿があった。
「なぁ、時雨。確かにそれらしい場所といえばそれらしい場所なんだが、昔から青木ヶ原(ここ)にあったのか? 空間門は……」
何とか距離を離されない様に必死に尾いて行くオレに、涼しい顔をした時雨が振り向いて答えた。
「そのようじゃ。千二百年程前はここら辺一帯は元々湖だったらしいが、それ以前からもこの場所に存在していたと伝えられておる。まぁ、同じ水の中という点では幾らか関係しているのかも知れんの」
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