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「…っく…恭平ぇ…」
恭平は止まらない涙にキスを寄せて、笑っていた。
「ここまで来てくれたんだよな、1人で。
本当にありがとうな」
そう言って何度も髪を撫でる。
暗かった夜に、いつのまにか少しずつ光が射して
空は白く霞み、海に反射して思わず目を細めた。
──夜明けだ。
あたたかい光……暁。
それは私の心の哀しみを解いていくように、溶かしていく。
「…高岡に奪られないように、俺も頑張らないとな」
「え?」
小さく呟いたその言葉が聞き取れなくて、恭平を見上げた。
でも恭平は私の髪を撫でたまま、優しく微笑む。
「こんなに泣き虫な娘に育って、おじさんもおばさんも呆れてるぞ?」
「……っ」
「嘘。泣かせてるのは俺だもんな。
こんな大切な娘を泣かせて、きっと今頃怒ってるよ」
恭平は優しく笑って、涙を拭ってくれた。
「今も……大切に想ってくれてるかな」
本当に逢いたい人には、もう逢えない。
星と月が輝く夜にしか…。
そう思って少し俯くと、恭平は下に置いていたボストンバックから、1つの白い封筒を私に差し出す。
「なに…?これ」
「ある人から預かってきた。
──お前宛ての、この世で一番のラブレターだよ」
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