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「おい、ちょっと待…」
あっけにとられている俺の手を引いて、男の子は嬉しそうに走り出した。
《ザザ……ン》
「…まじかよ」
いや、駅を出た時点でわかっていたことだ。
ここは、潮の香りがする。
俺は無意識に海沿いの町に来てしまったんだ。
「キレイでしょ?海!
僕、この景色大好きなんだぁ」
そう言って海都は俺を見上げる。
…名前だけじゃない。
似てるんだ…あいつに。
素直な所も、その笑顔も。
俺は海都の髪をくしゃくしゃと撫でて、最後にポンと手を置いた。
「そうだな。俺もこの景色気に入ったよ」
そう言うと、海都はパアーッと笑顔になる。
「兄ちゃん、こっち!ここ、僕の家なんだ!」
そこから歩いて1分程の所で、海都は足を止めた。
そう笑顔で指差した先は、一軒の民宿。
看板に、“永田旅館”と書いてある。
「早く早く!!」
「ちょ…っ」
海都は再び俺の手を引いて家の中へと連れて行く。
潮風が、そっと背中を押した気がした。
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