行く旅の先へ

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「海都!どこ行ってたの、もう夕方…」 威勢よく出てきた女の人は、海都の横に立つ俺を見て驚いていた。 「ねぇ、今日兄ちゃん泊めてよ!旅人なんだ!」 海都は靴を脱ぎ捨て、母親であろうその女性のエプロンを引っ張る。 「全くもう…。 ごめんなさいね、この子が無理に連れてきたんでしょう?」 「いえ…ここ、旅館ですか?」 「えぇ。古くてお恥ずかしいんですが」 その母親は時々海都を叱りながらも、俺に丁寧に対応してくれた。 「じゃあ…泊まらせて下さい。客として」 そう言って頭を下げると、海都は嬉しそうにはしゃぎ回った。 「そんな!息子が無理言ってここまで来て下さった方からお代を頂く訳にはいきません! 狭い所ですが、それでも良ければぜひ」 「いえ、払わせて下さい。…できれば数日」 最後の一言は予想外だったのだろうか。 女の人はとても驚いた顔をしていた。 「ここは温泉が引けるくらいですが… 海と星はとても綺麗な土地なんです」 「あとね、魚もうまいんだ!」 母親の後ろからひょっこり顔を出した海都は、客人用のスリッパを整える。 母親はそんな海都に手洗いうがいをするように注意すると、俺に向かって優しく微笑んだ。 「精一杯おもてなしをさせて頂きます。 さぁ、どうぞお上がり下さい」 俺は深く頭を下げた。 これが、俺の小さな旅の始まりだった。
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