美雨

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 見かねたのか、男性は発した。 「良ければさっきコンビニを見掛けたので替えを買って来ましょうか?」  少し微笑んだ端正な顔に、やはり高過ぎもせず低過ぎもしない心地の良い声。  独自の周波数を操り引力の力でも持っているのではないだろうか。  この人だけが持つ世界に引き込まれそうで、右手を頭上から胸元まで ぶんぶん と大きく二回往復させる。 「あ、いえ!替えは持ち歩いてるので…」 大丈夫です…赤面して染まっている自分の顔が恐ろしい程に判る。  まだ雨上がりがほのかに残るグレイのアスファルトから、もう顔を上げる事も出来ないでいた。
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