美雨

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   玄関の鍵をしっかりと閉めてから、白い手摺りにエスカレーターの様に手を滑らせながら二階の螺旋階段を降りてエントランスを抜けると、途端に雨上がりのアスファルトの匂いに包まれる。  懐かしい気持ちになる匂い。路肩に咲く名前を知らなかった、幼少期の花の匂いも重なる。  雨上がりの空は青い、というより蒼い。まだ撤退しきれていない雲がゆったりと流れていた。  そのまにまに虹が出てたら、と空を見渡したが見つからなかった。  美雨にとって今日は大事な日だった。  4月1日、7年働いた秘書課から、ずっと希望していた商品開発課への異動が決定し、今日がその初日なのだ。
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