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ガラクタな出会い
街は、穏やかな陽射しに包まれ、桜が咲き乱れていた。
暖かな風に花びらが舞ってとても綺麗だ。
要一は春の街を、荒川の土手に向かって歩いている。
いくらかの金は有るが、パチンコやギャンブルをしたいとは思わない。
酒を飲みたい訳でもない。
川口駅辺りに出れば風俗もあるが、今更自分に性欲が有るとは思えない。
要一は考えていた。
自分がこの街にいる理由を。
例えば日本中、何処だっていい、日本に捕われないで海外だって構わない。
何処か遠い所へ行きたい。
自分を待っている、何かがある場所に行く事だって出来るはずだ。
仕事やしがらみが無い、今なら出来るはずなのに自分の中の何かが、この街以外は駄目だと叫ぶ。
要一は、幼い頃からこの何かと闘って来た。
進学や就職、恋愛や結婚。
自分の中の何かが、自分の出した結論をいつも完全に否定する。
まるで悪い冗談の様に。
そして、離婚を機会に、この頃、要一にもやっと解った事があった。
『自分は狂っている』
自分の人生の節目節目に必ず見る夢が何を暗示していたか。
夢の中で自分は、真っ二つに縦で裂かれた孔雀の様な鳥だった。
右側の半身を震わせながら必死になって何かを探している鳥。
節目のたびに違いを感じた自分の意識。どんな時でも、自分の出した結論に対し反旗を翻す、自分の魂。
探してるのは、自分の半身。
求めるのは、失った魂の片側。何処にいる片方の鳥。
離婚を決めた夜、妻に、この話をして、ノイローゼだと心配された夢物語り。
自分の意識中で唯一、隠す事が出来ない事実。
自分の心を整理しながら、土手まで続く商店街を歩いて行く。
人に言われる迄も無く、自分は狂っているのだ。
子供の頃から消えない孤独感も喪失感も、きっと死ぬ迄消えない何かの呪いなのだ。
ならば今がその時だろう、何もかも無くした今なら、この狂った人生を精算出来る。
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