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相澤 愛は、路地裏のゴミ捨て場で意識を失い欠けていた。
恐怖感や疲労感も有ったが、それよりも父親に殴られた腹部が危険な痛みを彼女に訴えていた。
腹部の痛みは彼女に死を予感させる程だ。
このまま死んでも構わないと彼女は思う。
痛みに堪えながら、ゴミ捨て場の壁に身体を預け眼を閉じた。
痛みは、彼女の意識を次第に薄くして行く。
愛は、夢を見た。
何処か遠い場所、知らない国。
平和な時間と側にいる誰か。
彼女は、悲しみに暮れて寝た夜や恐怖感が募る度に同じ夢を何度となく見ていた。
現実がどんなに酷い時でも、彼女を慰める様に優しく包み込む夢。
夢の中で愛は、一羽の鳥になり、大好きな誰かと暮らしていた。
片側にしか翼が無い変わった鳥で、相手も同じ鳥だった。
二羽の鳥は、寄り添う様に何時も一緒で、寄り添う事で、やっと一羽の鳥の様に、大空を飛ぶ事が出来た。
愛は、相手の鳥が大好きだった。
名前も顔も解らない相手なのに、刻み付けた様な記憶だけが残っている。
幼い頃、彼女は、夢なのか現実なのか区別が付かない記憶に戸惑いもしたが、
彼女の現実は、その夢の記憶を唯一の救いに生きるしかないほど酷く荒んで行った。
夢の中だけの幸福な記憶。
愛は、痛みにより薄れる意識の中で願う。
このまま夢の中で、このままずっと一緒に……。
……… ドックン ………
………ドックン!………
………ドックン!!…………意識の底に落ちて行く彼女に、異変が起きた。
弱まったていた心臓が強く跳ねあがる。
意識では無く、魂が感じる。
それは、相手の魂。夢に迄見た、愛しい人の気配を感じる。
夢では無いか?
間違いでは無いか?
愛は、目覚めるのがこわかった。
怖くて瞼を強く強く閉じた。
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