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運命の出会いなど無いと思い、死を覚悟した男が。
それまでの人生で基いた、何もかもを無くした日に、探し求めていた運命に出会った。
商店街の路地裏、ゴミ捨て場の壁に、まだ幼い少女が倒れている。
要一は、駆け寄り少女の肩に手を掛ける。
一瞬の閃光。
要一の頭の中に少女の経験した全てが流れ込む。
要一の瞳から涙が零れ落ちる。拭っても、拭ってっても涙が止まらない。
愛の事、父親の事、母親の事、今までの事、そして今日起きた事。
まるで、ビデオの早送りの様に要一の身体に流れて来る。
魂の融合。
言葉では理解出来ても現実にこんな事が起こるとは思えるはずが無い。
要一の今まで生きて来た常識が、今自分に起きた現象を否定しょうとする。
必死で瞼を閉じていた愛にも同じ現象が起きた。
三十二年間分の孤独と現実が、幼い愛の魂に流れ込む。
閉じた瞳から涙が零れる。
間違いない、全ての不安が今確証に変わった。
愛は、ゆっくりとゆっくりと瞼を開く。
抱き抱えた要一も、愛の変化に気付く。
二人は、見詰め会い、それぞれの瞳の中に、夢で見た片翼の鳥を見た。
言葉は、何一つ要らなかった。
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