10人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
幸いにも、お客はまばらで、私達を気にしているような人はいなかった。
大きく息をついてから、私は改めて問いかける。
「ICUって……ちぃちゃん、高校行ったら全国目指すって……それに、お金もかかるでしょ?」
「何か、聞いた話だけど、二年の九月に部活やめて、バイトでお金貯めてたみたい。親御さんに迷惑はかけたくない、って」
その言葉に、私はグラスをみつめた。
「そんな……。で、ちぃちゃん、今どこに?」
「んーんとね……あそこ、ちょっと不便なんだよね。中央線だと、吉祥寺か武蔵境からバスだったと思うけど?」
彼女の言葉に、私の頭は真っ白になった。
思い当たる病院は、赤十字武蔵野病院か、杏林大学付属病院。
どっちも全国から患者さんが来る有名な病院だ。
そうすると、ちぃちゃんはもう、バスケができないのではないか。
グラスの中の氷が溶けて、からん、と高い音をたてた。
そして、意を決して私は口を開いた。
「……で、ちぃちゃんはいつまでいないといけないの?」
「いつまでって……最低四年はかかるんじゃない?」
戻ってきた言葉は、何とも冷淡に聞こえた。
私の頬を、涙が伝い落ちた。
最初のコメントを投稿しよう!