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痛いお腹を両手に抱え下ばかり見て歩く。
薄暗いアスファルトの上に広げられた砂や石ころは、見る度に残像となって伸びてくるのでゴムみたいに見えた。
そのゴムが味気なくて素っ気なくて、なんだかとても嫌だった。
散歩の犬はいつもこんな景色に逢いたくて、あんなにも尻尾を振りながら待ちわびるのだろうか。
‥たぶん違う。
犬だって、犬にしかわからない楽しいことや悲しいことがあるんだ。
そう思う。
私は泣きながら顔を上げ空らしき真っ黒な天井を見た。
そこには白い月と小さな星が二つだけあって、月の前を煙みたいな雲が恥ずかしそうに過ぎていた。
上を見て歩く方がお腹に優しかった。
私はしおれたキノコみたいに顔をあげる。
そして頭の中を極力空っぽにし、ただ転ばないように歩いた。
少しずつ夜の黒やが薄くなって、違う大きな光がしぶしぶ世界を照らし始める。
空を見続けていたからその変化に気づけた。
私はずっとそう思っていたのだろう。
けれど本当は、時々の間隔でちらっちらっと見てた方が、もっともっと早くわかったのかもしれない。
子供が成長したり自分が太ったりするのと同じで、ずっと寄り添っているというのは、皮肉にも気付くのが遅かったりする。
だから私は、今まで彼の浮気に気づけなかったのかもしれない。
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