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「なかなかうまくいかないね」
田咲(たざき)さんは言った。
床にはマムシやらスッポンやらの空きビンが、あっちやこっちに頭を向けながら、そのちっぽけな口を開け転がっている。
掛けと敷きの区別が難しい薄っぺらな布団の上で、私は田咲さんのかつて大切だった部分を穴があかない程度に見つめていた。
今もその大切さはきっと変わらないはずなのだけど、田咲さんのソレはそういったたぐいの自己主張を完全に忘れ、私の丸めた指の上でしょんぼりへそを曲げていた。
「すいちゃん、ごめんね」
田咲さんは苦笑いして言った。
笑い顔の少し混じったその悲しい顔は、ストレートな悲しい顔よりずっと胸が苦しくなる表情で、心がくみ取って私の顔に移してしまうくらいだったから、私の眉間には深い溝が二つも作り上げられた。
「田咲さん大丈夫だよ、
今日はたまたまだと思うんだ、
ほら、例えばこのドリンクがインチキ商品かもしれないでしょ、
それに、
田咲さん、きっと私が年下すぎることで、なんか道理に反しているような罪悪感を感じてしまってるんだよ、
だからゆっくりでいいの、
気が向いたときにでも、またしよ」
私は言った。
田咲さんの大切なものは、後ろめたそうに私の手の中を引き返しグンゼの大きなパンツの中に収まっていった。
「すいちゃん、ありがとう」
そう言って田咲さんは孫の頭を撫でるみたいに私の頭を撫でてから、ポロポロと涙をこぼした。
田咲さんの肌は真空パックに入ったお肉みたいにかたくて、低反発のまくらみたいに弾力がない。
それからその動きに油分はなく、動く度にどこかしらの関節がコキコキと鳴るので、ちょっとしたいいムードに水を差したり、ちょくちょく私に骨の心配をさせた。
そんな割り箸みたいにこわばった体を田咲さんは小さく震わせながら、さめざめと泣いていた。
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