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もしかするとそれは、よどんだ現実をただ逃避して隠しているだけにすぎないのかもしれない。
実際、田咲さんが私にしてくれていることは解決とは違う。
強いていうなら、今より濃い色を上から重ねていく作業だったけれど、そんな塗り潰しでさえ私の心をきちんとしっかり害気から守っていることには変わりなかった。
田咲さんとの関係が、恋愛かどうか問われると私は正直すごく困る。
恋愛とは違うと感じる気持ちも山ほど実感できていたし、だからといってこの気持ちを愛の下にくるような感情と位置づけするのは嫌だった。
私にとって田咲さんはどうしても絶対に必要な生きる糧なのだと思う。
そこには金銭的な策略や同情じみた偽善はなくて、ただ不自由な部分を補う植物や動物みたいに大切なものがあるだけだ。
極端にいえば恋愛感情だって心の求めるものを補う気持ちなのだから、そのほとんどは同じ様なものだろう。
過去に抱いた愛情とは少し違っていたけれど、どちらが本物かとか、どちらが強いかなんて、きっと誰も決められない。
結局のところ私はこれを有りと決め、愛に含めたのだった。
田咲さんと過ごす時間は愛としか言いようがないくらい、大切に流れている。
出来事の中にいると今こうしていることが、この先もう二度と無いことだったり、これが最後だということに大抵は気づかず見過ごしてしまうものだ。
むしろそういうことは、過ぎたずっと後に「そういえば…」みたいな形で舞い戻ってきたり来なかったりするのだと思う。
けれど田咲さんと同じものを見ていると、この景色やこの場面がもう二度と訪れないと切実に理解できたし、その儚さに触れることで、私は今流れているこの時空間を愛おしいくらい大切に送り出せるのだった。
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