2279人が本棚に入れています
本棚に追加
/150ページ
私と田咲さんの出逢いは、すごくへんてこりんなものだった。
正直、あまり思い出したくない。
あの日、私は生理2日目のすさまじい腹痛の中にいた。
下腹部が痛くて痛くて、後先も考えず腰から下を切り離してしまいたいと懇願するくらいに痛かった。
本当は奇声を発したり、転がったり、のたうち回ったりして少しでも痛みを紛らわせたかったのだけど、(当時つきあっていた)彼が隣で安らかな寝息を泳がせていたので、私は痛むお腹の大音量をひたすらじーーーーーーっと我慢した。
そのじーーーーーーーっの中ではとても過酷な秒針が、何十秒も何百秒も何千秒も何∞秒もチキチキチキと音をたてて泣いている。
私にとってその時間は果てしなく長いものだった。
一向に治まる気配のないその痛さに、私はお腹と背中がくっついて骨だけが浮き彫りになっているのじゃないかと不安になり、何度もお腹を覗き込んだ。
とにかく何をどうしても痛い。
いたい いたい
冷や汗や涙が出る。
もう、すごくすごく痛かった。
そんな時、彼の横で一緒に眠っていた携帯が突然、音も鳴らずにピカピカと光り出した。
暗闇で放たれたその光は、エンドレスだった私の苦しみに小さな波紋を作った。
思えば私は今まで、その黒い携帯の外観しか知らない。
それ以上は何も無かった。
それなのにその時どうしてか、彼の黒光りした携帯が禁断の果実みたいに見えて、それは少しの間、さんざん喰らい続けてきたお腹の激痛をドクドクと鳴る動悸に変えたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!