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私は聞き取れないくらいの小さな声で正論を訴えている良心にフタをし、彼を挟んで向こう岸に寝ころんでいた携帯を掴んだ。
ストラップ‥
携帯にくくり付けられていた用途のない偽物のぐっちが嫌な音を立てる。
私はその醜い見栄の塊を小指ですくって音を止め、それからゆっくりとその中身をひらいた。
崩壊なんていうものは足元とか鼻の先とか、すぐ近くのそこら辺に転がっているもので、壊れようと思ったら全てを簡単に砕いてしまう。
本当にすごい力の恐ろしいものだ。
今でもそう思う。
だけど少し余裕をもたせて言うのなら、起こる前に思案する方が、案外、最中よりずっと怖いものなのかもしれない。
崩れた直後というのは、小さな口に大きなものが一気に入りたがってるみたいで、くっきりとクリアに捉えるというのがなかなか難しいことだから。
私は彼の黒光りしている携帯を、不自然なところからブァキッと折って彼の家を飛び出した。
力が抜けて前に出ようとしない足を骨と気力で無理やり持ち上げて歩く。
そして首にぶら下げた鞄をフランフランさせながら、"鞄は持ってきたかな?"と朦朧とする頭で考えていた。
さっき光った彼の携帯は受信メールを知らせていた。
けれどメールはロックされていて見れなかった。
ロックをかけるっていうのは普通のことなのかと首を傾げながら、このロックが誰に対してものなのかを想像したら、彼のほっぺをおもいっきりつねってやりたくなった。
次に電話帳を見た。
女どころか男までも多すぎてちんぷんかんぷんだった。
そのあと、どうしてかブックマークを見た。
競馬のサイトと、出会い系なんかのサイトが連なっている。
私は小さなため息とともに想定の範囲内で凹んだ。
それからついでにマイピクチャを見た。
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