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扉を開けた状態でボケッとつっ立ちながら、私、笹垣 尊【ささがき みこと】は奥二重の眠たげな目を細めて教室を見回した。
とりあえず、感想。
「……何の決戦前夜?」
そこに渦巻く空気は、高校生の朝にふさわしい爽やかなキャイキャイとした雰囲気ではなく、あたかも明日決戦に出向く武将の最後の夜の如き棘々しい殺気を放っていた。
何が恐ろしいって、そりゃアンタ。彼女ら、クラスの女子全員。全員席に座って自分磨きに熱中しているんですもの。
派手な子はもちろん、委員長などの普段真面目な子まで鏡を覗き込むこの始末。だから、そんな決戦中の武将のような顔で覗きこんでも鬼のような自分しか映らないだろうに。
不意に教室の隅に目をやると、まるで壁に体をめり込ませるように避難している男子達が目に入った。
男子とはそんなに話した事がなかったが、鏡とにらめっこしている女子達に語りかけるよりは話が通じそうだと判断し、私は静かに男子の塊の方向に歩いていった。
「おはよう男子諸君。ね、何なのこの状況。何でみんな武将に馮依されてんの。いくら戦国武将ブームっつっても限度があるよ」
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