葵の章 愛してよ

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pm21:46 約束の時間はもうとっくに過ぎている、 ずっと見つめたままの 鳴らない携帯… 「あっ。」 携帯の待受画面が メール受信画面に変わる “新着メール一件” [連絡遅くなってごめん! 仕事でトラブってしまって今日行けそうになくなった、ほんまにごめんな!] …またドタキャンか せっかく久しぶりに会えると思ったのにな… Re: [いいよ、コウちゃんは忙しいもんね、会いたいって思ってくれただけで嬉しいよ、今日は早く仕事終わらせて奥さんのところに真っ直ぐ帰ってあげて下さいな♪] いくら遅くなったっていいから、本当はすごく会いたい… でも言えない コウちゃんが奥さんを大事にしている事は、私にだってよくわかる そんなコウちゃんにワガママを言って迷惑をかけたくない …ワガママを言って、嫌われたくない Re: [またそんな事を言う… 本当に俺は葵に会いたかったんやで? 嫁さんの事なんて別にどうでもいいねん、…やっぱり今からでも行くわ。] 嘘。 こんな事を言ったって、コウちゃんは来ないって事を私は知ってる。 だって今から来たら、コウちゃんが家に帰れる時間がすごく遅くなるもの…どんなに二人で甘い時間を過ごしていても、必ず家には帰るよね? 奥さんに心配かけたくないんでしょ? 来る気なんて無いくせに… Re: [本当にいいよ、私もそろそろ帰らないと行けないし、 また今度暇な時があったら誘ってね。] Re: […ほんまごめんな、また絶対誘うからな、 気をつけて帰りや、おやすみ。] Re: [うん、ありがと コウちゃんもね、おやすみ。] それでも来るって言ってよ! それはコウちゃんの優しさ? ズルさ? …私だって愛されたい 誰よりも一番に想われたい… でもいいの コウちゃんを好きになっちゃったのは私だし このままでも私は十分… 駅前のロータリーの時計台の下 大勢の人達が行き交う中 涙が静かに流れおちた。 嫌だな… 悲しくなんかないのに… 泣きたくなんかないのに… 泣いてるところなんて、人に見られたくない もう帰ろう。 そう思って顔を上げた時、 一人の視線に気が付いた。
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