葵の章 愛してよ

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若い男が立ち止まって、じっとこちらを見ている はっ! 慌ててまた下を向き、その視線から逃れようとした。 その瞬間に、その男がいた方から、走り去る足音が聴こえる… その走り去る足音に視線を向けると、その男は慌てた様子で駅の改札口の方へと走っていた。 …なんなのよ、急いでるんだったら、わざわざ立ち止まってまで人の泣き顔見ないでよ! 帰ろう… なんだか疲れちゃったよ… いつまでもこんな所に一人で居たって仕方がないし 一人でいる寂しさと夜風の冷たさで また涙がこぼれてしまうかも知れない… 早く帰ろう 早く帰ってお風呂に入って暖まろう 「ねぇねぇ♪ どうしたの?」 うつむく私に向かって誰かが話しかける うつむいた私の視界には、オシャレなスニーカーの爪先 顔を上げて、その声の主を確認すると そこには見た感じ21、2歳ぐらいの若い男が立っていた。 「さっきからず~っとここに座って…泣いてたよね? なにかあったん? 大丈夫?」 心配そうな顔でそう聞いてくる… 「なんでもない…です、ありがとう、大丈夫だから。」 今の私に話しかけないで… 「なんにもない事ないでしょ? なんか見てるこっちが苦しくなったもん。」 お願いだからそっとしておいて… 「なんにもないからあっち行って! ナンパなら他のコに行ってよ!」 今の私は… 「あ、ごめんごめん、怒んないで…、あ、そうだ…これどうぞ♪」 「え? 缶・・・コーヒー?」 優しさに弱いから… 無邪気に微笑みながら缶コーヒーを差し出す彼を見てると つられてちょっと笑顔になってしまう 「あ…ありがとう…うん、ちょっと寒いね。」 「可愛い~♪ 笑った顔めっちゃ可愛い♪ コーヒー飲んで暖まってくださいな♪」 「そんな…、からかわないでよ、それにせっかくなんだけど…私コーヒー飲めないの、ごめんね。」 「え、そうなん? じゃあ…」 そう言いながら彼は私に近づき… 「きゃっ!?」 「暖かいでしょ?」 彼は私の頬に缶コーヒーを当てて、笑顔でそう言い 「カイロ代わりにでも使ってよ♪ こんな所にいつまでもいないで、早く暖かい所に帰りや♪」 暖かい…、缶コーヒーの暖かさと彼の笑顔に、気が緩んでいってしまう… 「いつまでもこんな所にいたらホンマに風邪ひいてしまうよ、じゃあね♪」 彼はあっさりそう言うと、くるりと向きを変えて歩きだした…
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