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その夜、
僕は世界の中心に立ち尽くしていた。
眼が離せないのは、
視界全体に広がる情景がめまぐるしく変わっていくからだ。
カン高い戦場の調べと、無惨に砕け散ったコンクリートの山に踊る紅蓮の中に沈む部品の足りない元人間、そして今まさに崩れ落ちた高層ビルから鼓膜を震わす轟音が地鳴りを起こし、頭上よりゴオゴオと煩い空を舞う翼を持つモノの群がる幾重かの影がまた爆撃を始めるのかと思い見上げれば雲をも溶かす緋色の空が僕の眼に焼き付いてきて……
僕は思った。
世界が青なのだと言ったのが誰だかは知らないが、きっとソイツは大嘘つきだ。
だって、ほら。
世界はこんなにも、絶望の紅なのに……
「…………!!」
目を覚ました時の室内には、既にアップテンポな最新曲が音量全開で響き渡っていた。
半分無意識状態の僕はベッドに潜ったままのばした腕でその音源をまさぐり、四つ足机の上のそれをキャッチする。
それは手の内で昆虫みたいに暴れ回る物体。
僕は今度は掌の上で、くるりとそのケータイ電話を反転させてみた。
「夢、だったのか……?」
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