右目と左目/S/了

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目の前には夕日が見える。 赤く赤く、自らまで溶け込まれてしまうような熱い夕焼け。 「政宗様」 背後に勝鬨を浴びる。 これから俺が背負うのは、 俺にこれまでついて来た家来よりもっと多勢になる。 天下統一に走り回って、 勝ち取ったその先も、 俺は走り回ることになるような気がする。 「政宗様」 悠々と城で寛いでいる暇もなく、 また今後も争いが続く、 そんな龍の憶測。 一時とは、一時である。 背後の勝鬨が止むと、 俺は一体どんな顔をして振り向いたらいい? また、家来を引き摺って、戦に出させることになるのか。 家に待ち人がいても、何が何でもついて来るに違いない奴らに、また俺は戦につき合わすことになるのではないか。 いつの間にか、眺めていた夕日を頭の天辺に置いてけぼりにして、 奥州の王は地面を見つめていた。 沈み行く日に、砂利が陰る。 自分の影が伸びきって、そのまま消え行くのだ。 砂利に溶け込むのだ。 まだ日は熱い。 俺には時間がある。 今しかない。 「小十郎」 「はっ」 「お前に何が見える」 勝利の余韻に浸って頬を緩めていた右目は、すぐさま主の心を察っして鬼の小十郎に戻る。 伊達政宗の返答を待つ素振りは、 泰平の世を眺めて満足しているような余裕まで窺わせた。 しかし、 「お涙を焦す政宗様が見えます」 小十郎は言いたいことを全て膨らませて、一言で簡潔に答えた。 この先の苦悩も、全てご一緒に。 「こちらに向き直り、全てを纏ったお姿を隠し、悠々と天を翔けます」 全てに覚悟を決めた小十郎だった。 天下の覇王に従う己は、どんな主であれ、ずっと傍にいるという。 完全なる信頼の主従関係が、竜を天に昇らせる。 静粛の合図で向き直る。 竜の目には後ろにしたはずの燃える陽が焼きついて雄雄しさを放っていた。 逆光を浴びて光り輝いた己は、自然と口元に笑みを浮べていた。 「てめぇら、ついてこいよ……!!」 竜の左目に見える世界は、 右目もまた同じである。 見渡す限りの泰平の世を、この眼に映すときも、同じであるのだ。 了 07/08/25
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