白い雨/H

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濡れることはあっという間なのに、 乾くことは何故時間を要するのか。 それとは裏腹な咽の渇き。 「ん、雨は止んだのか」 「まだ降っておりますよ」 「小十郎のvoiceは雨音を忘れさせてくれるな」 「俺のせいではなく、 政宗様が行為に夢中になっているから、 でありましょうぞ」 暗がりで、雨か汗か分からない。 ぬるついているが、血か体液か分からない。 「勝手なことを」 行為の事しか頭に無いと思われていることに腹を立て、貪るように口を塞ぐ。 月はまだ出ないのだろうか。 雨宿りなんてどうでもいい、喘いでいる相手の顔が見たい。 営業を終えた茶屋の屋根の下。 背中に壁を合わせて待ちくたびれる伊達政宗を、 無意味にも雨から身を張って避ける従者。 月が出ても、一番に俺の顔が晒されるのか。 接吻を交わしながら雨を睨む。 疲れからか寒さからか、震える小十郎に熱を注ぐ。 「いっつもてめぇだけしか考えてねぇと思ってると、痛い目見るぜ」 「願ったり叶ったり、ですが」 一つ力み、乾いた音を立たせて煩い従者を低く呻らせる。 「寒そうにしてっから、こんなに注ぎ込んでやってんだ。一滴も溢してんじゃねぇぞ」 ギュッと小十郎を抱え込むと、頬を合わせ、そう耳打ちする。 「暗がりではどれが政宗様か……」 従者は黙った。 触れ合っている身体からではない、両者とも冷え切っているはずの頬に、温もりが伝ったことに驚いて。 長い長い漆黒の時。 雨は小十郎を叩いては、 背筋を凍らせるような寒気を残して背中を伝う。 月夜に照らされるまで程ない頃だった。 続く 07/08/31
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