魔法使いは王子様

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「んー」  よく晴れた気持ちのいい朝。家を出ると、握った両手をぐんと空に向ける。ぱあっとこぶしを開くと、なんとも爽快な気分。 「よし、行くぞ」  左腕に茶色いバスケットをかかえ、すぐそばにある小さな山をのぼる。鼻歌をうたい、ご機嫌でワンピースをひるがえす。普通の人はめったに近付かない薄気味悪い林を抜け、背の高い雑草をかき分け木々に囲まれた草原にたどりつく。最近雨が降っていないせいか、乾いた草のにおいがした。  袖をまくり、ぱっと目を開く。つみにきた薬草を見落とさないように。チュンチュン、小鳥の歌声が聞こえた。 「いったあ!」  意気揚揚と一歩踏み出したとたん、何かにつまずき頬を擦る。うー、うなりながら起き上る。何につまずいたのか、そっと見る。動物かと思いきや、男の人だった。 「……はあ?」  びっくりして、声が裏返る。なに、なに? この草原は、知っている人自体がとても少ないはずだし、今まで一度も見たことのない人だし。しかし。 「きれい……」
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