白い女、赤の他人。

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「あ、宗次郎。僕お腹空いちゃった」 「はぁっ!?」 表情は変えぬまま、人差し指を立てて言いはなった沖田の言葉に、宗次郎は思いきり顔を歪めた。 「軽めのものがいいな。よろしく」 「よっ、よろしくってアンタッ…じゃなくて先生…」 「アンタ、を聞かなかった事にしとくからほら、早く」 最後にあからさまに作った笑顔を見せれば、もう宗次郎に反論は出来ない。 分かりやすく大きなため息を吐くと、ブツブツと文句を言いながらも何処かへ言った。 「お前、小姓をパシリか何かだと思ってねぇか?」 「違うの?」 「……」 また表情を捨てた沖田。 土方は呆れてものも言わなかった。 「冗談だよ。あ、でも非番の件は本気」 傍らにあった、もう温いであろうお茶に口をつけて告げた。 「…宗次郎を下がらせたのは?その話に関係あんのか?」 「…また行かないと。薬を貰いにさ」 一口お茶を飲み、何でもないように言った彼に、土方は表情を厳しくさせ、小さく舌打ちをした。 「ったく…質の悪い。駄目と言えねえじゃねぇか」 新撰組は、宗次郎が入隊するほんの少し前に、池田屋という旅籠で行われていた桂小五郎、吉田稔麿、宮部鼎蔵らも参加していた会合へ踏み込んだ。 会合の内容は、京を焼き、混乱に乗じて帝を長州へお連れしようというとんでもない計画について。 池田屋事変、等と呼ばれ、維新を遅れさせさとも言われている。 その際藤堂は額を割られ、沖田は喀血。 沖田は、労咳。今で言う結核を患っていた。 江戸時代、それは死病とされていた。
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