白い女、赤の他人。

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そこへ、一人の若い平隊士がやって来た。 「失礼します」 「ん?どうかしたのかぃ?」 「宗次郎に客が…」 「だとよぉ、宗次郎」 床に尻餅をついたままだった宗次郎に手を差しのべながら、相手に話を振った。 「俺に…?」 間抜けな顔をしながら、どうも、と素直に手をとり立ち上がってから、伝えに来た隊士に確認するようにたずねた。 宗次郎は、元は盗人。 自分を訪ねてくる者など思い当たる節もなかったのだ。 しかし、平隊士は頷いた。 「ああ、白子やけど綺麗な娘はんでな、小綺麗な着物も着とったわ」 「えっ、白子?」 そこで、久しぶりに幾日か前の事を思い出した。 「ちょ、平助さん。俺行ってきます!」 素早く道場の下座へ戻り、籠手と面を置いて、隊士の横を抜け走って行った。 「あんだぁ?宗次郎も隅に置けねぇなぁ」 竹刀を肩に担ぐように持ち、いやらしく片方の口角を上げながら片目を細める藤堂。 隊士も宗次郎の背を見ながらそうですね、と笑った。
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