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「お嬢さん帰るのかい?でも……足は帰りたくないようだよ」
何を言っているの?と思って足を踏み出そうとした。なのに……動かない。
「ほら足は此処に残りたいんだと」
突然足は動こうとした向きと反対方向に、スキップでもするように歩いて行き、木の台の上で止まった。
それが本で見たようなギロチンだと気付くのに、そうかからなかった。
「お嬢さんは帰ってもいいと。晴香は親切だねぇ」
お店の人がにっこりと笑って――口元が笑っているのだけは見えた――慈しむ様な口調で云った。
何が何だか分からなくなってくる。
どういう事?何でギロチンがこんな所にあるの?晴香って何の事?……もしかして足の事を言っているの……?
足は台の上で地団駄を踏んでいる。
「ほぅら、急かさないでも今自由にしてやるよ」
お店の人がゆっくりと歩み寄る。
血の気が引くのを感じた。
軽くギロチンに手を掛けた。
もう、早く終われば良いのに。と思った。
重たい刃が一瞬鉛色に光ると、残像を残して落ちた。
ザク
痛みと赤い水溜まりが広がる。
恐怖、絶望――
塞き止められていた感情が、わあっと流れだした。
目の前が赤く染まり、薄紙を重ねるように意識が薄れてゆく。
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