靴屋の話

4/6
前へ
/30ページ
次へ
「お嬢さん帰るのかい?でも……足は帰りたくないようだよ」 何を言っているの?と思って足を踏み出そうとした。なのに……動かない。 「ほら足は此処に残りたいんだと」 突然足は動こうとした向きと反対方向に、スキップでもするように歩いて行き、木の台の上で止まった。 それが本で見たようなギロチンだと気付くのに、そうかからなかった。 「お嬢さんは帰ってもいいと。晴香は親切だねぇ」 お店の人がにっこりと笑って――口元が笑っているのだけは見えた――慈しむ様な口調で云った。 何が何だか分からなくなってくる。 どういう事?何でギロチンがこんな所にあるの?晴香って何の事?……もしかして足の事を言っているの……? 足は台の上で地団駄を踏んでいる。 「ほぅら、急かさないでも今自由にしてやるよ」 お店の人がゆっくりと歩み寄る。 血の気が引くのを感じた。 軽くギロチンに手を掛けた。 もう、早く終われば良いのに。と思った。 重たい刃が一瞬鉛色に光ると、残像を残して落ちた。 ザク 痛みと赤い水溜まりが広がる。 恐怖、絶望―― 塞き止められていた感情が、わあっと流れだした。 目の前が赤く染まり、薄紙を重ねるように意識が薄れてゆく。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加