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羊が横たわっている。
氷ついたかのように動かない。
「…大丈夫ですか」
声を掛けてみた。すると気が付いたらしく、瞼をゆっくりと開け、こちらをみてきた。
つぶらな瞳でじーと見つめてくる。
とても可愛らしくて、とても可哀想な目だった。
暫く見つめ合っていると、羊がプルプルと震えだした。
「…ンメェ…」
振り絞るように発したその声は僕に向けられたものだ。
近寄るな
そう云われた気がした。
何だよ。心配したのに。僕が嫌いなのか?
もともと僕は、動物には好かれない、寧ろいつも逃げられた。当たり前か。
だが、声を無視して近付いてゆく事にした。
「メェッ…メェッ…」
振り絞るような声が、鳴り響く。しかし、すぐ横まで来ると流石に諦めたのか、黙って目を閉じた。
横たわる羊に目を下ろすと、毛が濡れているようだった。恐る恐る、引っくり返してみる。
「…大丈夫か…これは…」
驚いた。羊の腹部は血に染まり、真っ赤な毛になっていた。よく見ると引き裂かれたような傷口があった。
それも無数に。
「メェェエ!!」
急に羊が叫び声をあげた。
びっくりして腰を抜かしていると、羊はマリオネットの糸が切れるように崩れ、力尽きた。
その瞬間、羊の瞳の中に自分の姿を見た。
僕の姿は血まみれた牙の狼だった。
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