訓練

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閻は2人の時間軸のズレに気付いた。 2人の間合いはお互いに手を伸ばせば届く距離になる。 鉄也は加速した力を利用しストレートを打つ。 驚異的な早さだ。解放モードとなったアドノマリーなら避けるも防ぐのも必死。 だが今の仁にそれは、驚異と成さない。  仁は鉄也が拳を打つモーションが手に取るように見えた。  若干、冷静に戻った仁は前にも似たような感覚を思い出す。  仁はカウンターを狙って鉄也の顔面めがけストレートを放つ。  パシーン!と乾いた音。力あるストレートでなく、急所を的確に捕えるコンパクトなストレート。 何万回とシャドーをした結果がここで力となる。 しかも完全に鉄也より拳が出遅れたことにも関わらず鉄也の拳が届く前に仁は拳を鉄也に当てていた。  鉄也は軽い脳震盪を起こしふらつく。 「おいおい、なんだよ?お前の早さはよ。」 仁はその声を聞き取った。鉄也の焦りと混乱を感じて今は自分が有利な立場にいることを知る。 そのことが心にある変化を生む。  仁は鉄也の言葉を無視し、軽くジャブを2発繰り出す。確実に顎を捉え、今度はストレートを顔面に打ち込む。  「ぐはっ!」  今度は鉄也の首がぶっ飛ぶ。立場が逆転した。  仁は楽しくなってきた。今まで苦手な奴、虐めてきた奴、クラスにいる嫌がらせをする奴を鉄也に被せる。仁は少なからず仁はそんな奴らに一度でもいいから自分の力で屈しさせたいと思っていたが勇気がなくそれが出来ずにいた。 しかし今は違う。心から沸き上がる物があった。今まで抑制されていた負の感情、そして、貯めに貯めた悔しい、情けなさ。それらが交ざり合い仁の感情を壊す。 仁の心の奥底に眠る抑制された負の感情が目覚める。 「くっくっ。」 自分の力に酔い痴れる。鉄也の顔面に拳が入ったときは何とも言えない気持ちよさがそこにはあった。
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