蒼天穹 ~雨のしずくと魂しずめ~

3/4

11人が本棚に入れています
本棚に追加
/69ページ
  「あ、お兄ちゃん」  ようやく兄が来たことに気付いた彼女は、上を見あげた。金の瞳、純白の髪、先のとがった耳。今度はまちがいなく、自分の兄だ。 「大丈夫か? 木の実拾いに行ったまま戻ってないっていうから、心配したんだぞ」  いつものように頭にのせられた手が、くしゃくしゃと撫でまわしてくる。 「あのね、お水の中にひとがいるの。お兄ちゃんにそっくりでね、でもね、お耳がとんがってないの」  妹はみたままを言葉にする。それで兄には、彼女が帰ってこなかったわけがわかって納得した。  少女はだれかの、声のないこえをきいていたのだ。 「耳がとがってないのは、まえに歌った話にでてきた『人間』だよ」 「にんげん?」 「うん。お兄ちゃんに似ていたんなら、それはたぶん、生まれる前のお兄ちゃんかな」 「おかあさんの、おなかのなかなの?」  少年は首をよこにふった。それから、もはや朱く染まりはじめた太陽のほうに顔をむけ、目をほそめる。 「お母さんのお腹の中より、もっとずうっと前だよ。僕たちは、うまれる前は人間だったんだ」 「あたしも?」 「うん、そうだよ。もしかしたら前も、お兄ちゃんの妹だったのかもな」  それでお前をみていたのかも、と笑い、少年はやさしい旋律を唇にのせた。 『月の涙に集え   さまよえる音なきかばね』 『うつろう時の波   ねむれぬ夜にゆるゆると』 『わが胸にかえれ   時をこえ結ばれしむくろ』 『とわに縛りし咎の鎖を   われ今ここで断ち切らん』 『願うは幾多の星に   乞うはなんじの心に』 『やさしき雨は天より降りて   いつか花を添えるだろう』 『木々の涙が  やがては琥珀となるうちに』 『太陽の舟にのり   幾千のちにかえることを』 『われ祈る   大地の母に頼み乞う』 『月の涙に集い   いまは天に休め』 『太陽の舟にのり   かえる時をしばし待て』  
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加