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木々がざわめく。なにか目にみえないものがゆっくりとその場でうろつくのがわかった。歌に反応し、どこか喜んでいるようにも感じる。
歌がとぎれると、それは微笑むように一瞬とどまり、そして少年の姿と交わった。少年の方も、腕をいっぱいに広げてそれを受け入れる。
「多分ずっと、待ってたんだ。僕が来るのを……きづいて、歌うのを」
少年の表情がわずかに影をおび、すこし大人びた口調でつぶやいた。しかしすぐにもとの顔にもどって、少女をよぶ。
「そろそろ帰らないと。みんな心配してる」
妹は笑みとともに差しのべられた手をつかみ、二人は手を繋いで帰っていった。
あとにはどこか軽くなった空気と、木の株に溜まった澄んだ水だけが、のこされていた。
fin.
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