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とある世界、とある一族が記録する書物を紐解くと、こんな神話がある。
世界がまだ、世界たる形をもつ以前のこと。
そこにはまだ何もなく、ただ形なき「時」がゆるりと流れていた。
「時」は空間ですらないその場所をぐるぐると巡るのみの存在であった。やがて時の巡る中心から、一柱の神が生まれた。
黒という色を纏うそれは、「闇」であった。
闇はただ孤独に、長いこと円を描く時の中心に座っていたが、やがて立ち上がり、上にも下にも終わりのない、一本の柱を作る。
そして時の中心にそれを据えると、時は柱に沿って螺旋を描き始めた。ここに初めて、今と同じく一方向に流れゆく時が生まれた。
真っ直ぐに伸びた時の柱は、新たなる神を生んだ。闇と対になる「光」である。
しかし、闇と光が神として何かを成すにはまだ力が足りなかったので、二神はしばらく柱の周りを交互に回っていた。
巡るうちにそれは昼となり、夜となり、やがてその間からまた二柱の神が生まれでた。「暁」と「宵」である。
闇、光、暁、宵、これら四柱をあわせ、時より生まれ出でし神々「四刻神」と呼ぶ。
四刻神はまず、それぞれが世界の元となるものを作り出した。
闇は水を、光は炎を、暁は風を、宵は土をうみ、時の柱の終わりなき根元にすえて、ゆっくりとかき混ぜ始めた。
ここに、泡のような幼い世界がひとつ生まれた。
だが、いくらかき混ぜても世界はどろりとした泡のままで、一向に固まろうとはしなかった。そこで神々は世界を四つに分けて、どうすればよいのかを試すことにした。
一つ目の世界には、神々の爪を入れた。すると世界はばらばらに裂けてしまった。
二つ目には、神々の涙を入れた。すると世界は凍りついて砕けてしまった。
三つ目には、神々の唾を入れた。すると世界は少しだけ固まりはしたが、それ以上にはならなかった。
最後に、神々は自らの血を注いだ。するとようやく世界は固まりだし、少しずつだが大きく広がりはじめた。
やがて時と共に成長した世界が神々を覆うほどに大きくなると、神々は世界の中に自分たちの住まう場所を作ることにした。
神々は何もかも混沌としたその中へ降り立つと、その中から軽く澄んだものを選んでは上へ投げあげ、重く濁ったものは下へと投げおろしはじめた。
重いが清純なものは、濁ったものと別の場所に分けておいた。
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