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「琳ー!こっち来てみろよ!」
窓側で暇を持て余していたクラスメイトが、にやにやしながら叫ぶ。
「あんだよ!くだらねーことならぶっ殺すぞ。」
桜花 琳(おうか りん)。
緑泉学園高等部芸能科2年。
琳はこの祭にある想いを秘めて、前年度以上に積極的に仕事をしていた。
その理由は言えないが、とにかく、重要なことだ。
「お前のマドンナがメイドやってんぜー!」
「ぶほふぅおぅぅ!!」
なんとも言えない奇声が、端正な顔立ちの琳から漏れた。
なんということだ…!
石壁 静(いしかべ しずか)。
緑泉学園高等部接客科3年。
その愛らしい顔立ちからファンも居るというあの静先輩が、静先輩がッ
「メイドさんなんて!!」
「なんか琳が言うと更に気色悪いな…。」
琳はクラスメイトを睨み付けるも束の間、再び静に視線を戻す。
あれはそう、俺が中等部に居て、先輩が高等部に入ったばかりの頃だった。
俺はちょうどその時、一人校舎裏で友達を待っていた。
高等部の恋実祭(レンジツサイ)に行こうと誘われたからだ。
今思えばあの時、本当に一人で良かったと思う。
「そこの君ー!」
人数は少なかったものの、俺ではないだろうと思いつつ、無視して、来る途中に買ったジュースを飲むと、ふいに足音が俺の後ろで止まった。
「はあ…なんで無視するのよー?」
その高等部の生徒は、ぜぇぜぇと呼吸をしながらも、訴えてきた。
「すんません。俺だと思わなくて…平気っすか?」
彼女はこくこくと頭を上下に揺すった。
当時の琳はまだ成長期を迎えていなかった為、彼女の顔の辺りしか身長がなかった。
「…良かったらどぞ。」
未だに荒い呼吸をする彼女に、俺は先ほどのジュースを突き出してみた。
「ありがとッ」
彼女は躊躇いもせずに受け取ると、半分あったジュースを飲み干してしまった。
「ふう…あ!うちメイドカフェやってるから、ぜひ来てくれない?でないと客が居ないって先輩が怒っちゃって。」
舌を出す仕草は、愛らしい彼女には似合っていた。
「ねッ!」
いきなり女の子特有の柔らかい手で掴まれたので、俺は途端に赤くなってしまった。
「で、でも、なんで俺!?他にも客はいるじゃないすか。」
琳はあからさまに焦っていた。
「えー。でも君かっこいいもん。」
飾りっ気のない誉め言葉と、彼女の微笑みで、俺の思考は止まった。
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