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その後、メイドカフェで受付をしている彼女を見て一日を過ごしたことは、言うまでもない。
「なんだー。そんな理由かー。」
「は!?なにお前俺の心ん中、覗き見してんだよ!!」
「しっかり語ってましたよー。」
琳はあらぬ方を向いて苦笑した。
「琳。そろそろ準備しろよな。」
あの時恋実祭に誘って下さった麻原惇(あさはら じゅん)が、琳の肩を叩く。
あの頃よりかなり身長の伸びた琳は、当時抜かされていた惇の身長を悠に超し、今や180代あった。
静たち接客科がメイドカフェをやるように、琳たちにも仕事がある。
琳たちがするのは、芸能科主催の転換演劇だ。
転換とはつまり、女性でいえば男装、男性でいえば女装のことを指している。
そして琳は今年も、主役をすることになった。
これは決して、無理矢理などではなく、むしろ、喜ぶべきことなのだ。
「琳姫ー!今年も期待してるぜー!」
クラスメイトの一人が、口笛を鳴らす。
似合い過ぎていたこともあり、幸か不幸か、どこかの男共がファンクラブを作ったらしい。
これにはさすがの琳も涙した。
男に好かれたって嬉しかない。
それにもしそのファンクラブが静先輩に知られでもしたら…
琳はその恐ろしい考えに悪寒を覚えながらも教室を出て、体育館へ向かう。
「琳。それにしてもお前、ちゃんと覚えてきたんだろうな?」
惇が琳の背中を思い切り叩く。
その顔はにやついていた。
「台本なんかとっくに覚えたぜ。」
琳は惇の笑みに首を傾げながら答える。
「はあー。これだから琳は…」
惇はあからさまに嫌な顔をした。
そして琳に耳を貸せと身振りで合図する。
「?」
琳は言われた通りに身を屈ませる。
「告白すんだろーが。」
「なっ…!!」
その小声の囁きに、琳は勢い良く顔を上げると思わず周りの廊下を見回した。
「こんなとこで言うんじゃねーよ!!だ、誰かが聞いてたらどーすんだよ!!」
琳は顔を真っ赤にすると、しきりに両手をばたつかせた。
「別に聞かれたって平気だとは思うが。」
「そうゆう問題じゃねーの!!」
理解しかねていない惇に、琳がむすっとして訴えた。
そしてまた顔を赤くし始めた。
「告白なんて俺…やっぱ…」
「彼女にしたいんじゃないのかよ?」
惇の直球の質問に、琳は両手の人差し指をつつき合いながら頷く。
「ま、まあそりゃあ彼女になってくれたら俺は…すごく嬉しいなあ…」
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