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沙希さんの病室に現れた柄の悪い男は藍那さんに近づいて来た。
「龍崎組のお嬢様と…その舎弟の剛久くんじゃないッスか~!
いやぁ、なんか久しぶりッスね」
男が藍那さんに握手を求めると…獅堂さんが間に入って睨んだ。
2人の間に沈黙が訪れたが、すぐ手を引っ込めて愛想よく笑った。
「相変わらず…お堅いガードが…いや、番犬がついてますねぇ…」
「貴様…ッ」
「――剛久…下がりなさい」
「……分かりました」
藍那さんの目の色が変わり、凛とした態度で男と向き合った。
「……何しに来たんですか?
ここは、あなたのような人が来る場所じゃないと思いますけど…
ほら、治るものも治らないしね」
「俺だって来たくて来たわけじゃないんスけど…ワケありでね。
話が終わったら帰りますよ。
長居すると立場が危ういんで…」
男は獅堂さんをチラッと見て沙希さんのベッドに近づいて…手近にあるイスにドカッと座った。
「沙希さ~ん…正直に話してくれませんかねぇ…北島潤平の行方…アンタなら分かんでしょ?
アイツ見つけねぇと困るのよ~」
男は笑顔で話しかけるけど…沙希さんは無視して窓の外を見た。
すると鼻から溜め息を漏らし…
「――黙ってんじゃねーよ!」
怒鳴り声と共に、彼の座っていたイスが窓際まで飛んで落ちた。
沙希さんがゆっくり顔を戻すと…
「ガキの使いじゃねぇんだよォ…あんま知らばっくれると…
そのキレーな顔に傷をつけなきゃならなくなっちまいますよ?
だーかーらー…早く教えて――」
「――荒城ィィィッ!!」
病室全体に響きわたる声で全員を驚かせたのは大塚さんだった。
病室の外から彼を睨んでいる。
「…チッ…潮時か…」
荒城さんは沙希さんから離れて、藍那さんに会釈して扉へ…
そこで立ち止まり振り向いた。
「……んじゃ、また来ますわ」
最後まで大塚さんは、荒城さんを睨み…彼も挑戦的な目をしてた。
荒城さんが帰って行ったのを見た沙希さんの目からは大粒の涙…
「…う…うぅ…っ」
「大丈夫…?ゴメンね。
うちの関係者が迷惑かけて…」
「あの人…何者なんですか?」
「荒城隆造…銀竜会の代表だ」
「銀竜会って…」
「龍崎組傘下の暴力団よ。
だから、うちの身内なの…――」
藍那さんは寂しそうな目をした。
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