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経済アナリスト・茨木宗夫さんの妻で漫画家の姫野玲美さん…
彼女がここに来た理由は1つ。
「姫野玲美…少女漫画家です」
「ご依頼とは…」
「…私の夫は、経済アナリストの茨木宗夫なのですが…その夫が、昨日、亡くなりました。
湊テレビの楽屋に独りで――…」
玲美さんはハンカチを取り出して顔を覆うように涙を拭いた。
「詳しく聞かせてください」
「番組の収録前に、甘い物を差し入れするのが日課で…昨日も彼の楽屋に向かったんですが…
部屋を開けたら、宗夫さんは…」
「……すでに亡くなっていた」
ハンカチを持ったままで頷く玲美さんを見据えた幸永さんは…
彼女に営業スマイルを見せた。
「死因は分かりますか?」
「楽屋に置いてあった…お弁当の玉子焼きが減っていたので…
アレルギーだと思ったんですが、少し妙なことに気づきまして…」
「そうか…そういえば茨木宗夫はタマゴアレルギーだったな」
「妙なこと…というのは?」
「首に絞められた痕があって…」
「絞められた痕ですか…」
アレルギーが酷い人は、わずかな量で致死量に達する人もいる。
けど茨木さんの首には絞められたような痕があったというのは…
たしかに、おかしい気がする。
「じゃあ、ご依頼というのは…」
「茨木宗夫の死の真相を暴いて、私に真実を教えてください。
どうして死んだのか…私は本当のことが知りたいんです…!
どうか、よろしくお願いします」
「分かりました。お任せ下さい」
またもや営業スマイルを見せた。
「…じゃあ、早速…現場に向かいますから待っていて下さい。
すぐに準備して参りますので…」
「はい」
「幸人くん、ちょっと…」
ボクは幸永さんに呼ばれて部屋を出て幸永さんに着いて行った。
廊下の端まで来ると…幸永さんは辺りを見渡し、溜め息をついた。
「幸永さん…?」
「幸人くん、キミにだけは言っておくけど…姫野玲美さんには気を付けておいた方がいいよ。
彼女の行動を見ていて欲しい…」
「どうして…ですか?」
「彼女…あれだけ涙を流していたわりに、冷静に茨木さんの死体をちゃんと見ていたからさ。
普通、自分の夫が死んでいたら…死体をまじまじと見つめるなんて出来ないことだからねぇ…
ちょっと怪しいと思ったんだよ」
「分かりました」
そこまで考えていたなんて…
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