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中国にいた秀吉もまた、光秀と密会していた場面を思い出していた。
光秀が信長への謀反を告白し、自らを殺せ、と秀吉に頼んでから頼まれてから数ヶ月後。
秀吉なりの返答をした時だった。
「明智殿、わしも随分悩んだ」
事実、秀吉は以前に比べ、やつれ気味になっていた。
罠かもしれない、と秀吉は悩んだ。
しかし、次第に冷遇されていく光秀を見て、またさらに横暴になる信長を見て、その疑惑は解消された。
つぎに、光秀を犠牲にしてまで自分が天下を望むべきか、ということで悩んだ。
とはいえ、秀吉には誰よりも天下を望んでいたし、いかなる点でも光秀には劣らぬことも自覚している。
(だからと言って……)と、らしくない倫理観にも責められる。
しかし光秀は民衆を大切にする人間である。
光秀は己一個のためではなく、民衆のためにこの計画を打ち立てたのだーー!
そして決断。
「わしに全てを任せてくれ」
と、光秀にむかい力強く言い放つ。
涙目になりながら、光秀は、
「よく、ご決断いたした」
と、声を震わしつつ述べたのである。
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